―自動車販売店・その空間の変貌―


序章

 販売重視の“訪問型”から、快適空間追求の“来店型”へ

 読者の皆さんは、クルマで郊外を走っていて、ロードサイド店で一番目につくのは、どんな施設だろうか。
 おそらく(1)ガソリンスタンド(2)外食(3)ディスカウントストア、ホームセンター(4)コンビニエンスストア(5)カーディーラーというのが代表的なものだろう。
 このうち、“たくさんあったけど看板のメーカーのロゴしか印象がない…”のが、カーディーラーではないだろうか。それは無理もない話で、ほとんどの場合、クルマを買い換える以外、訪れる用事がないからである。
 実際バブル崩壊後は、車を買い換える期間(代替期間という)は平均5年から7年へ伸びていること、いつも営業マンが自宅まで納車や引き取りに来るから一度もお店に行ったこともない、というケースもあるだろう。では、こうした一般消費者と接触チャンスが限られた自動車販売店とは、どのような業態なのだろうか?

 業態を反映するのが業務スタイル、という見地からすると、自動車販売業の場合、変革の最中にある。伝統のスタイルは、先輩からたたき込まれた「足で稼ぐ」哲学を守り、お客様の自宅に軒並みに訪問してセールスをかけることである。家にいてのんびりしていようとするお客の事情など全く関係なしである。そうなると、お店もそれなりの状態で、巨大な看板(経年劣化で必ずしも美しいとはいえない)を立て、「セール」「大売り出し」「○○発表」などののぼりや垂れ幕で覆われたショールーム。入口やウインドウのガラス、店内の壁にはクルマのポスターがベタベタ貼られ、必ずしも明るいとはいえない空間の至る所には、いつ置いたとも知れないPOP類が無造作にころがっている。修理工場は、オイルと排気ガスで汚れていて、さらにそこで作業するメカニックも、汚れたつなぎを着て無愛想。たまに、ニューモデルをちょっと見に来ただけなのに、お店に入るや否や営業マンが飛んできて頼んでもいない機能の説明が始まり、アンケートを書いたら最後、後でしつこい電話と自宅まで訪問をされてしまう…。実はまだこういう店舗も多数残っているのも事実である。
 ところが、新車販売のピークとなったバブル崩壊後、様相は大きく変わり始めた。消費者は必ずしも新車にこだわらず、またグレードアップを求めなくなってきた。当然1台のクルマに長く乗るようになった。一方、個人のプライバシーを重視し、人と直接コミュニケーションを取ることが苦手なタイプの日本人も増え、従来手法であるセールス氏の訪問販売は対応できなくなったのである。

 そこで、各メーカーやディーラーは、こうした飛び込み訪問営業の件数や回数を重視する訪問型の営業スタイルを見直し、「確実な見込み客を獲得または育成する、お客の方から来店される」お店への転換を始めている。そのために、点検・修理(サービス)を充実させて新車代替えまでの絆を深めようと、古くなった店舗(営業所)からハードはもちろん、運営システムまでのトータルなリニューアルを進めている。
 その代表がトヨタ系列の「オート」店が「ネッツ」店に変わったことだ。V.I.(ビジュアル・アイデンティティー)を導入して店舗全体のデザインを統一。店内はすっきりとしたレイアウトで、統一したデザインの什器を配し、展示車を見ていてもしつこくスタッフがまとわりつかない。また修理工場も清掃が行き渡り、中にはわざわざ工場を見せるためにガラス張りにしたり、立ち入りを自由にしたりと、お客が快適に、楽しく過ごせる空間づくりを実践している。

 こうした消費環境の変化に伴う、自動車メーカーの主導による、お店としての空間再生には、国産、輸入車を含め全てのメーカーが取り組みを活発化させている。そこで実際に“来店型”の店づくりを実践しているディーラー、さらに、こうしたディーラー集客力を高める支援としてのショールームなどをレポートする。

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